日加学園教育理念に寄せて

日加学園 校長
千木良 緑

「教室内でお客様を作らない」「引き受けた生徒は決して投げ出さない、諦めない」

これは私が日加学園で教師を始めてから、何度も何度も聞いた言葉である。先代校長を始め今まで学園で働いてこられた先生方が、この日加学園の理念を長い年月をかけ培い、守られてきた。今年で創立45年になる日加学園だが、この理念は今なお日加学園の第一教育理念として引き継がれている。

「教室でお客様を作らない。」とはどういうことか。それは生徒一人一人にとって学園で学ぶ時間、日本語を学ぶ時間が空虚なもの、無意味なものとならないよう、クラスで授業についていけず取り残されて「お客様」となってしまうことのないよう、教師が各生徒それぞれに目を向け、それぞれにあった教育に全力で取り組んでいくことである。

「引き受けた生徒は決して諦めない。」それは縁あって日加学園に入ってきた生徒に対し、どんな事情があろうとも突き放すことなく諦めることなく、誠意を尽くし知恵を尽くし、忍耐強く教え続けていこうという決心に他ならない。

言うのは簡単だが、実行するのは実はとても大変なことである。毎年9月新学期当初から、各担任は毎週生徒一人ひとりと話をし、保護者と連絡を取り、教室での様子を注意深く観察し、宿題を添削しながら個々の生徒の特性や事情を理解するよう努力を続けていく。限られた時間の中で各生徒の成長を見守り、それぞれに合った最善の教育を模索しながら毎回の授業を工夫して進めていくことは、大変な労力を必要とする。時には迷う時もある。必死に手を差し伸ばしても拒絶されてしまうこともある。そんな時は教師、そして家庭が力を合わせ、その子その子の日本語学習そして人間としての成長に、最善の道を一緒に探していこうと議論を重ねる。そのような教師達の熱意、そしてその教師陣を支えてくださる保護者のご尽力ご協力があり、この日加学園教育理念が今でもしっかりと引き継がれているのだ。

この理念に基づく日加学園での教育を通し、長い時間をかけてしっかりと育まれてきた絆、信頼、自信、そして日本への思いは、21世紀、子供たちが日加親善の第一人者として活躍していくこれからの未来で、必ずや大きな糧となると信じている。そしてその未来を生きる子供たち一人一人の幸せを、心より、本当に心より願ってやまない。